本記事では無形資産について考えてみます。おそらく印刷会社・広告会社M&Aでは、意外に盲点になっていることかもしれません。
1)特殊なところはある?
ある印刷会社の株式譲渡M&A案件で、ある買い手候補が断ってこられたときの話です。
「熟慮した結果、機械装置は優れていますが、特殊な技術やその分野での顧客がない会社を買うことはやめようと思います。」という理由です。
何か異なる分野を統合することでシナジーを出したいので、一般的な設備や人をさらに抱えることはリスクだと判断されました。M&A対象である印刷会社や広告代理店・制作会社などが、「特殊性を持っているかどうか」はM&Aの成立のしやすさに大きく影響します。
このときNHK「欲望の資本主義2021」で、ジョナサン・ハスケル教授が次のようなことを言っていたことを思い出しました。
「今の時代の企業価値は、大きな工場・機械・土地に値段がつくのはわずかで、intangible assets(無形資産)に大きな値段がついている。ICT革命以降、企業評価をする際に、知的資産、評判資産、関係資産・・・これらに大きなウェイトがあるということです。」
確かにそのような時代になっていますね。成熟化したモノ余りの時代、「実態のあるモノ」ではなく、見えない資産が大事になっていることは確かです。知的財産権、ブランド・顧客基盤、組織風土、顧客データやビッグデータに代表される情報などは「実態のない大きな資産」です。
実際IT関連企業では、中小企業M&Aであっても、EBITDA(営業利益+減価償却費などいわゆる収益力指標)の5倍・10倍もの評価を受けることがあります。これは、無形資産に対する期待値が値段に多く含まれていることになります。
2)印刷・広告業界の無形資産
印刷・広告業界でも、特許・著作権・顧客基盤など大きな無形資産を保有しています。
例えば、私の知る印刷会社はその地域の写真や映像を膨大に保有し、一般的なフォトストックサービスでは手に入らない素材を武器にビジネスに結びつけています。
また、顧客基盤が強固かどうかも重要です。ただし、顧客基盤への影響力がオーナー社長が牛耳っているとM&A後に大きな問題なので、属人的でない関係性がどの程度あるかも大事です。
バランスシートだけではわからない資産をどのように評価するのか?売り手側から見ると、高く評価してもらえる無形資産がどのぐらいあるのかどうかということになります。無形資産を含めた自社の強みをもう一度点検すると、自社の潜在力に気づくかもしれません。
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