どの産業にもライフサイクルがあり、衰退期が訪れます。残念ながら毎年市場が縮小している以上、印刷業は衰退期にあると言っていいと思います。そんな業界だからこそ、印刷業は小さな変化ぐらいには柔軟に対応できる組織になるべきです。
1.工場スタッフの変化対応力
コロナショックによる急速なデジタル化の加速で、印刷案件の小ロット化が止まりません。最近の商業印刷系の工場で聞く投資話は、
ケース1:機械の削減(例. 菊全8色機と菊全4色機の2台の機械を廃棄して、A全4色UV機1台に入れ替える)
ケース2:CTPをなくすためにオフセットをすべて外注にして、POD機を何台も並べる
この程度の変化に自社の社員がついてこれているかどうかは極めて大事なバロメーターです。
上記ケース1は、工場では人が採れないので、機械台数の削減はちょうどいい投資かもしれません。しかし、上記のケース2だと、いくつかの職種が消滅します。オフセット印刷がなくなり、製版がなくなります。それまでの製版・オフセット印刷のオペレーターは製本をしたり、配送倉庫整理をしたり、営業をするケースもあるかもしれません。
ここで大事なのは、ケース2はそれでもなお、印刷会社でありつづけています。印刷物をつくるやり方が変わっただけで、明日からケーキをつくるわけではありません。この程度の変化対応力はビジネスをつづけるには最低限必要です。日頃から社員には業界のマクロ環境を理解してもらい、前向きにキャリアチェンジができるような風土をつくっておくべきです。
2.営業スタッフの変化対応力
ソリューション営業の必要性が叫ばれて何年にもなりますが、未だ営業スタイルが、顧客の言われる注文をさばくだけの御用聞きスタイルから抜けきれない印刷会社も多く存在します。
印刷会社は立派な地元の顧客を持っていることが多いので、ルートセールス形式でもいいと思いますが、ルートメッセンジャーなのかルートセールスなのか今一度見直す時期に来ていると思います。印刷物の紙の種類や納期の相談に応答しているだけでは、ルートセールスとは言えません。
誰もが困りごとだらけのこのご時世、顧客が何に困っているのかを把握して、解決策を一緒に考えて提案できるスタイルがない会社を買ってしまった場合、M&A後に買い手は苦労するのではないかなと思います。
それは大きな変化に対応できなくても、小さな変化対応で十分です。
印刷会社がデジタルマーケティング会社に転身しなくても、たとえば下記のような印刷ソリューションだけでもできていれば、買い手もシナジーが出しやすいでしょう。
・どんなデザインで困りごとを解決できるのか(コンテンツ視点)
・どんな時に、どんな経路でその紙媒体を流通させれば効果的なのか(マーケティング視点)
・どうすれば、紙媒体のムダの削減、環境配慮ができるのか(業務改善視点)
同じ印刷物を売ることにしても、顧客理解と顧客貢献への努力が感じられる営業組織が求められています。
買い手がM&A後に苦労するようでは、スピードを買うと言われる「M&A成長戦略」は失敗と取られても仕方ありません。PMI(M&A後の統合)視点を考えると、対象企業の組織の柔軟性は極めて重要になります。組織が氷のように固く硬直化していませんか?売却を考えているオーナー様は買われやすい組織づくりを心がけるべきです。
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