昨今の世界情勢が不安定さからあらゆる商材の需給バランスが崩れ、円安も相まってインフレが加速しています。印刷業界でも同様の問題が起きています。
今後、印刷会社のM&Aのバリュエーション(企業算定)や成約価額に影響してくるはずなので、以下解説をさせていただきます。
紙が一番のコスト
印刷会社によって、比率は異なるものの、どの印刷会社(印刷工場を保有している場合)にとっても最も大きな材料原価となるのは紙です。チラシやフリーペーパー・大ロットのDMをガンガン印刷している業容であれば、紙代が売上の半分を超えてきます。したがって、紙の値段は無視できません。
もちろん、国内製造コストが上がっているのなら輸入紙という選択もありますが、私の経験上では今の情勢で輸入紙が代替品として機能することはまずないと考えます。本記事を書いている2022年現在での話しをしますが、今の製造技術や供給体制で言えば1ドル=105~110円ぐらいにならないと、輸入紙が国産紙に対抗できるような水準にまでなっていかないと思います。したがって、国産ペーパーが購買され、国産ペーパーの値動きが印刷会社の収益構造を左右するという状態です。
刷版コスト
紙以外では、インクや洗浄系の副資材などの価格が上がっていますが、一番懸念されているのが刷版です。刷版とは、印刷するときの「版」つまり、ハンコのことです。この半年で2度の大幅値上げになっています。国内の製造手法として主要なオフセット印刷では、アルミ純度の高い刷版が必要になります。近年の値上がりや、主要生産国である中国やロシアの情勢も影響を受けていると聞いています。単なる値上げの問題にとどまらず、版がなければオフセット印刷はできませんので、安定供給ができるかどうかのリスクも考えないといけないときに来るかもしれません。
2021年秋以降の値上げ(2022年5月調べ)
資材 | 値上げ幅 | |
①2021年10月~ | 刷版プレート(印刷の版) | 15% |
②2021年10月~ | 印刷インキ | 40~100円/kg |
③2022年1月~ | 紙 | 15% |
④2022年6月~ | 刷版プレート(印刷の版) | 20% (①からさらに値上げ) |
⑤2022年6月~ | 印刷インキ | 60~100円/kg |
なお人件費や輸送コストの高騰はどの産業でも同じ傾向なので、ここでは解説しません。
値上がりは2021年10月以降に特に顕著になりましたので、直近の決算書では今後の収益性を読むのに不確実だと思われます。この見解も加味しながらバリュエーション(企業算定)にあたってください。
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