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Ⅰ)赤字企業でも売却を試してみる価値がアリな理由
一般的には財務状況や衰退期にある業界の会社は不人気であり、買い手がつかない可能性が高いです。
ただ、そんな中でもお相手が見つかる可能性はあります。もし、「うちの会社なんて買い手がつかない」とあきらめる前に一度、M&Aによる売却活動を試してみるといいと思います。
理由1)インターネットの力を利用できる時代
M&Aは、今はネットでもお相手を見つける時代です。ネットで中古品を出品されたことはありますか?
もしご経験あるならわかると思いますが、「こんなものがなぜ売れるのか?」と不思議に思われたことがあると思います。
ヤフオクやメルカリで売ってみたことがある方は、ネットのマッチング威力の強大さを感じているはずです。
明らかに厳しい状況なら売却は無理ですが、少々の赤字、さらには少々債務超過であっても、価値を見出して買ってくれる会社様はどこかにいるかもしれません。そのお相手を探すのに、インターネットの力を利用できる時代になっています。
事実、ある大手インターネットM&Aマッチングサイトでは赤字でも多くの成約案件が出ています。
理由2)赤字であっても、事業譲渡パッケージの組み方で売れる可能性がある
M&Aを行うには、株式譲渡だけでなく、事業譲渡という手もあります。事業譲渡は、比較的自由に売る品目を設定できるので買い手がつきやすい形に、組み合わせれば売却できる可能性が広がります。
例えば、会社そのものは赤字でも、「土地と従業員AさんとBさん、それから第一工場で●●円」などとすれば魅力が増して買い手がつく可能性もあります。ただ、事業承継目的であれば、一部の事業が残ってしまう(しかも不採算事業であることが多い)ので、結局事業継続する部分が残るため、使いにくいと思います。
以上、赤字でも試してみる価値アリな理由を書きましたが、(営業利益+減価償却)が数年連続で赤字だとさすがに難しいかもしれません。
また、赤字だからというより、財務管理・労務管理やコンプライアンスがしっかりしてない理由で、買い手がつかないということもあり得ます。逆に黒字で。も、自社の強みに将来性がないから相手が見つからないこともあります。ぜひ、赤字の程度だけでなく、「買い手にとって自社は魅力があるか」、自社の可能性をあらゆる視点から多角的に考えてみることをおすすめします。
Ⅱ)親族内に後継者がいなくて、M&Aをするときに最初にクリアしないといけない条件
中小企業で、後継者がいないオーナー経営者の場合、そのほとんどは「株式譲渡」というM&Aスキームで事業承継をします。第3者に株式を売却することで、会社の所有者から外れ、また引継ぎ期間が終われば通常は経営者からも外れるというやり方です。
そのときに、売りたい会社の株式を100%売却できることが最も大事なポイントです。売りに出せないものは買えないからです。
社歴のある中小企業では、株主が分散していることがあります。株主が自分の家族の中であれば、かき集めてすべて売ることに同意を取りやすいですが、遠い親戚や過去の役員などに分散していると、コンセンサスがとれないことがあります。また、「売却しましょう」と話したくても、連絡すらとれないこともあるかもしれません。
買い手からすると、株式譲渡である限り、対価を払ったら、きちんと株式の所有権が自分に移転したことでM&Aが成立するものです。売りに出せる環境にない株式は、買いたい人が現れても買えません。
そのような状態では、株式譲渡のM&Aは何も始まりません。
売り手は最終契約書にて、株主名簿が正しいことを表明してこれを保証をします。違反があれば大変な問題になり、絶対的な責任になりますので、必ずクリアーしなければならない条件です。
*株主が分散していると思ったら、設立時に出資していないのに、名前だけ貸した株主(名義株主)の可能性もあります。
その際は、名義株主に連絡して、真の所有者ではない名義株主であるという確認書をとるなどの手続きが必要になるケースもあるので、その実態を把握しておくことも大事です。
Ⅲ)廃業という選択肢はない。あっても最後である。
中小企業の後継者不足は深刻です。後継者不足に直面している世代にとっては、事業承継としてのM&Aがまだまだメジャーでないため、廃業を選びがちですが注意が必要です。
周りに後継者がいなくても、いきなり廃業という決断はおすすめできません。理由は以下のとおりです。
理由1)M&A(株式譲渡)の方が、通常たくさんお金が残る
a.評価額面
貸借対照表にある純資産の分が現金として手元に残って、廃業できればいいですが、そうはいきません。なぜなら、貸借対照表は税金計算のルールで評価されたものであり、現在の市場価値ではありません。
実際に清算を前提の時価評価をしていけばわかりますが、都市部を除いて、土地は大きく含み損を出していることがほとんどですし、機械も在庫も貸借対照表の価値を大きく下回ることがほとんどです。したがって、実質的にはオーナーの保有する価値はゼロどころか、マイナスの価値(債務超過)になることもしばしばです。
M&Aの場合は、通常は事業継続していくため、在庫や機械も処分価格のような見方をしない買い手も現れることも考えられますし、今の純資産の価値に加えて、今後の収益力(のれん代)も値段に反映されます。したがって、M&Aの方が高く売れることがほとんどです。
b.税制面
会社の後継者がいないオーナー経営者の場合、ほとんどが株式譲渡というM&Aスキームを使います。
株式譲渡の場合、自分が保有している株を売却して出た利益の20.315%の納税になるので、大きな額が動く割には税率が低く、他の選択肢と比較しても税制面で有利なケースが多いです(2021年現在)。
一方、廃業の場合は、残った財産で資本金を超えた分(出資した額を超えた分)は株主に分配しますが、この分は配当されたとみなされるため、会社の清算という大きな額の場合、高い税率がかけられます。
以上、売却価格の側面、そして納税面、どちらの観点からも、通常はM&Aのほうが手元に残るお金が多くなり、有利になります。
M&Aの場合、株式譲渡だけで取引するのではなく、役員退職金のスキームも付加すれば、さらに節税ができる可能性もあります。
同じ会社の評価なのに、M&Aと廃業で、自分の手取り額が大きく違うことをまずはご理解ください。
もちろん、M&Aは相手が現れるかどうかわかりませんし、時間もかかります。ただ、これまでオーナー経営者として苦労して積み重ねてきた結果が、株式売却の価格であり、そこから納税した、最後の手取り額になります。
ぜひ苦労しからには残ったお金を大きくされる方にかけてみることをおすすめします。
理由2)廃業による社会的な犠牲
a. 廃業で、従業員・取引先に迷惑がかかり、今までのノウハウが失われる
M&Aでは、事業承継してくれるため、従業員の雇用や取引先との商いをできるだけ守り、また事業を発展させてくれる可能性があります。しかも、これまで培ったノウハウや強みも活かされるケースがほとんどです。
しかし、廃業を選べば、従業員の雇用も取引先との商いもなくなり、ノウハウ伝承もありません。もちろん、先祖から長年つづいた会社が終わるだけでなく、社会的にも責任を果たせなくなり、ハッピーリタイアというよりは残念な気持ちが残るかもしれません。
オーナー経営者も不老不死ではない以上、オーナー経営者としての務めの終え方でいうと、M&Aはあらゆる方面を幸せにする可能性を残したまま引退できます。
Ⅳ)M&Aから連想するイメージがよくないのですが、世間体的に大丈夫ですか?
株や事業を買い取ることは、乗っ取りだとするイメージが先行して、いいイメージを持っていない人が少なからずいるのは事実です。
しかし、世の中の中小企業のM&Aは、幸せな結婚のようなものです。決して、敵対的買収ではなく、友好的かつ互いが幸せになるための売買取引です。
たとえば、中古車の売買を想像してください。乗っ取りや敵対的な要素はなく、売った人も買った人もハッピーなのは言うまでもありません(会社の株式売買を中古車に例えると叱られるかもしれませんが、わかりやすくするために例えさせていただきました。)M&Aは、よく「お見合い結婚」に例えられます。よき相手を探し、タイミングよく良き相手に出会ったら、互いの合意のもと良き縁結びが行われるのです。
地方ではまだ、「人に会社を売るなんて」「人様の会社を買うなんて」ということを言う人がいます。後継者問題が顕在化している中、事業承継の形として、最もポピュラーな形式になりつつあるM&Aを否定することは、もはや古い考えと言わざるを得ません。間違った悪いイメージだけが先行して、ハッピーM&Aの機会を逸して手遅れになってしまうのは、とてももったいないです。ぜひ、M&Aという選択肢の素晴らしさに目を向けていただければと思います。
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